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《リッチとリーンで30日》門間理良(もんま りら)氏の書評

査読結果報告書

門間理良(もんま りら)

査読結果 D(パン作り初心者にとり、極めて不適切な内容)

投稿論文 門間みか『ぱん工房くーぷ×オーヤマくん リッチとリーンで30日』(2019年7月)

レシピ本として極めて不完全であり用をなさない。構造的欠陥があるため修正は不可能。これまでパン製作の経験がない者には不向きだが、焚火の点火に使用するには手頃。

およそ作業手引書と称される書籍には備えるべき必須条件があると考えられる。パン作りのレシピ本の場合、「目的としたパンの製作に準備すべき材料と、それらの分量、及び製作手順が明確に記されており、指示通りに実行していくことで製作過程における失敗確率を限りなく下げて、目的のパンを安全かつ所要最短時間で手にすることができること」が挙げられよう。
しかしながら、本書は「リッチ」及び「リーン」なる生地を基本とすることが2頁で記されているものの、それがいかなるものかが明確に定義付けされていない。それについては、投稿者の前著『ほんのりしあわせ。おうちパン』(集英社)(以下、OPNと略記)に示されているという。これは学術論文で一般的に採用されている「先行研究の参照」に該当するが、それをパン製作初学者に要求するのは通常のレシピ本から逸脱した行為である。また、生地のこね方や発酵時間もパン製作にとって重要な要素と思料されるが、それらもOPNを参照していなければ、わからない仕様となっている。「ベーカーズパーセント」もパン作りを志したばかりの者には理解しにくい概念だと思われるが、説明は簡略化されている。査読者はこのような体裁のレシピ本に未だ接したことがない。
上述のごとくOPNを熟読した人物にしか適さない形式を採用している本書の欠陥が構造的かつ致命的であるのは明らかであり、修正は極めて難しいと判断した。パン作り初心者にとっては不親切極まりないレシピ本として、査読者はD判定を下した。

しかしながら、本書を別カテゴリーに分類するならば、異なった判断も生まれる余地が存在する。試しに自分の好きなパンを目次から選択し、読んでみるといい。およそパン製作の説明に徹した通常のレシピ本では考えられない冗長な文章だが、そのパンの魅力が的確に記述されていることも事実である。さらに、美しいパンの写真も効果的に配置されている。実は、これは査読者が10代の頃によく書店で目にした「アイドル本」の形式を踏襲したものである。アイドル本はゴーストライター執筆がお決まりだったが、本書は投稿者が責任をもってパンを焼き、執筆し、撮影を行っている。このような要素と形式を兼ね備えた『ぱん工房くーぷ×オーヤマくん リッチとリーンで30日』は、最強の「パン・アイドル本」なのである。本書を超える「パン・アイドル本」は、やなせたかし著『アンパンマン』(フレーベル館)が存在するだけであろう。
以上

 

 

査読担当者:門間理良(もんま りら)
1965年生まれ
川崎市在住、仙台市出身
拓殖大学海外事情研究所教授
元々は中国軍事史研究者だったのに、現在はもっぱら中国や台湾の軍事・安全保障を研究。原稿の締切が近づくたびに、なぜ、もっと計画的に取り掛からなかったのかと悔やみながら慌てて研究室に泊まりこみ執筆する日々。
台湾や中国のシンクタンクを訪ねては、意見交換を楽しむ。             

著書の『台湾をめぐる安全保障』(慶應義塾大学出版会)が、低めの枕として最適との評判を呼びベストセラーにならないかと、ここ数年夢想している。

空道(くうどう。総合格闘技)愛好家(現在2段)。

(^O^)/ https://researchmap.jp/read0212538/